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「糸リフトをやってみたいけれど、本当に効果があるのだろうか」「フェイスリフトとどう違うのか、何を基準に選べばいいのかわからない」——こうした疑問を抱えて来院される患者様は、年々増えています。SNSや美容メディアに「糸リフトで劇的に若返った」という体験談があふれる一方で、「思ったより効果がなかった」「すぐ戻ってしまった」という声も少なくありません。情報が多すぎるがゆえに、かえって混乱している方が多い印象を受けます。
私が日々の診療で痛感するのは、「どちらが優れているか」という二択の問いの立て方そのものが、少しずれているということです。糸リフトとフェイスリフトは、それぞれ異なる仕組みを持ち、適しているたるみの程度や患者様のライフスタイルによって、最適な選択は変わります。どちらにも明確な「得意領域」と「限界」があります。
このコラムでは、美容外科医の立場から、糸リフトとフェイスリフトを正直に比較します。過度に期待を煽ることなく、それぞれの施術の仕組み・効果のエビデンス・リスク・費用の目安を整理し、「自分にはどちらが合っているか」を判断するための軸をお伝えします。
それぞれの施術はどのような仕組みなのか
まず、2つの施術の仕組みを正確に理解することが大切です。
糸リフト(スレッドリフト)の仕組み
糸リフトは、医療用の細い糸を皮膚の下に挿入し、組織を物理的に引き上げる施術です。使用される糸の多くは、医療現場でも縫合糸として長年使われてきたポリジオキサノン(PDO)や、ポリ乳酸(PLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)といった吸収性素材でできており、数か月から1〜2年かけて体内に吸収されます。
糸にはコーン型やバーブ(返し)型などの突起がついており、これが皮下脂肪や筋膜(SMAS筋膜)に引っかかることで、たるんだ組織を上方に保持します。さらに、糸が異物として認識されることでコラーゲン産生が促進され、皮膚のハリ感が高まるという二次的効果も期待されています。メスを使わず、局所麻酔のみで30分から1時間程度で終わる点が最大の特徴です。
フェイスリフト(外科的挙上術)の仕組み
フェイスリフトは、耳の周囲や頭部の生え際などに切開を加え、皮膚の下にあるSMAS(表在性筋膜)と呼ばれる筋肉と脂肪をつなぐ層を直接操作することで、たるんだ組織を引き上げる外科手術です。SMASを縫合・固定することで、皮膚だけを引っ張るのではなく、顔の構造そのものを根本から整えます。余分になった皮膚は切除されるため、フェイスラインの大きな改善が見込めます。
手術時間は術式によって異なりますが、一般的に2〜4時間程度を要し、全身麻酔または静脈麻酔下で行われることが多いです。
効果とエビデンス——何がどこまで変わるのか
糸リフトの効果については、近年複数の臨床研究が発表されています。2019年にAesthetic Surgery Journalに掲載されたレビューでは、糸リフトは軽度から中等度のたるみに対して即時的な改善効果をもたらすものの、効果の持続期間は概ね1〜3年程度であり、その後は再治療が必要になるケースが多いと報告されています。また、2022年の韓国の多施設研究では、PDO糸を用いた施術後6か月時点での患者満足度は比較的高い一方、18か月後には半数以上で効果の減弱が確認されています。
一方、フェイスリフトの効果持続期間は、術式や個人差はあるものの、5〜10年程度と報告されており、外科的介入の恩恵は明確です。2020年にPlastic and Reconstructive Surgeryに掲載された長期フォローアップ研究でも、SMAS操作を伴うフェイスリフトは術後5年を過ぎても有意な改善を維持していることが示されています。
重要な点として、糸リフトは皮膚の余剰分(たるんで余った皮膚)を除去することはできません。そのため、皮膚が大きく余ってしまっている中等度以上のたるみには、物理的に限界があります。一方で、フェイスリフトには手術という心理的・身体的ハードルがあります。この差を理解したうえで選択することが重要です。
リスクとダウンタイム——正直に知っておくべきこと
糸リフトのリスク
糸リフトは比較的侵襲が少ない施術ですが、リスクがないわけではありません。主に以下の点を事前に理解しておく必要があります。
- 内出血・腫れ:施術後数日間はみられることがあります。多くの場合1〜2週間で落ち着きます。
- 表面の凹凸・ディンプリング:挿入直後に皮膚表面に波打ちや引きつれが生じることがあります。多くは自然に改善しますが、まれに長引くことがあります。
- 糸の露出・感染:まれに糸が皮膚を突き破って出てくることや、感染が起きることがあります。その場合は糸の抜去が必要になります。
- 非対称・引きつれ感:左右差や違和感が残るケースがあります。
- 効果の早期消失:糸が早期に緩んだり、組織の固定が不十分だったりすると、数か月で効果が薄れることがあります。
ダウンタイムは個人差がありますが、一般的には3〜7日程度です。腫れや内出血があっても、コンシーラーで隠せる程度のことが多く、施術翌日から通常業務に戻られる方も多いです。
フェイスリフトのリスク
外科的手術であるフェイスリフトは、より高いリスク管理が求められます。
- 血腫:術後に血液が貯留する血腫は比較的頻度の高い合併症であり、発生した場合は排液処置が必要なことがあります。
- 神経損傷:顔面神経の枝が走行する領域を操作するため、表情筋の動きに一時的または永続的な影響が出る可能性があります。熟練した術者が行うことで頻度は抑えられます。
- 傷跡:切開部位の瘢痕は個人差があります。適切な術後ケアにより目立ちにくくなりますが、完全に消えるわけではありません。
- 皮膚壊死:喫煙者や循環障害のある方では皮膚の血流が障害されるリスクが高まります。
ダウンタイムは糸リフトとは大きく異なり、腫れや内出血が落ち着くまでに2〜4週間程度かかることが一般的です。社会復帰の目安は術後10〜14日前後とされますが、完全な仕上がりを実感できるのは3〜6か月後のことが多いです。
費用の目安——相場を正しく理解する
費用は施術内容や使用する糸の種類・本数、クリニックによって大きく異なります。あくまで一般的な目安としてご参照ください。
| 糸リフト | フェイスリフト | |
|---|---|---|
| 費用の目安(片側) | 5万〜20万円程度 | 50万〜150万円程度 |
| 麻酔 | 局所麻酔 | 静脈麻酔または全身麻酔 |
| 施術時間 | 30〜60分 | 2〜4時間 |
| ダウンタイム | 3〜7日程度 | 2〜4週間程度 |
| 効果の持続 | 1〜3年程度 | 5〜10年程度 |
糸リフトは初期費用が低く見えますが、効果が1〜3年で薄れるため、繰り返し施術を受ける場合はトータルコストが積み重なります。一方フェイスリフトは初期費用は高額ですが、長期的な効果を考えると費用対効果の観点から合理的な選択肢になり得ます。費用だけで判断するのではなく、ライフスタイルや求める効果の程度と照らし合わせることが大切です。
施術を受ける前に確認すべきこと
どちらの施術を検討するにしても、カウンセリングの段階で必ず確認していただきたいことがあります。
自分のたるみの程度を知る
たるみの程度は、医師が直接診察してはじめて正確に評価できます。軽度のたるみには糸リフト、中等度以上で皮膚の余剰が著しいケースにはフェイスリフトがより適していることが多いですが、これはあくまで一般論です。年齢・骨格・皮膚の質・脂肪の分布など、個人差が大きく関係します。
医師の経験と実績を確認する
特にフェイスリフトは、術者の技術と経験が結果に大きく影響します。日本美容外科学会(JSAPS・JSAS)の専門医資格を持つ医師や、症例数の多い施設を選ぶことを参考にしてください。糸リフトにおいても、糸の種類・挿入部位・本数の設計が仕上がりを左右するため、経験豊富な医師による判断が重要です。
「組み合わせ治療」という選択肢も知っておく
近年では、糸リフト単体ではなく、ヒアルロン酸注入・ボツリヌストキシン・高密度焦点式超音波(HIFU)などと組み合わせたコンビネーション治療が注目されています。たるみの改善と同時にボリュームの補正や皮膚の質感向上を図ることで、より自然で満足度の高い結果が得られるケースがあります。こうした選択肢についてもカウンセリングでぜひ相談してみてください。
まとめ
- 糸リフトは軽度から中等度のたるみに適した、メスを使わない施術で、効果持続は1〜3年程度が目安。
- フェイスリフトはSMAS層を直接操作する外科手術であり、中等度以上のたるみに対して長期的(5〜10年)な改善効果が期待できる。
- 糸リフトは皮膚の余剰(余った皮膚)を除去できないため、たるみの程度によっては根本的な解決にならない場合がある。
- どちらの施術にもリスクがあり、糸リフトは凹凸・感染・効果の早期消失、フェイスリフトは血腫・神経損傷・瘢痕などが代表的。
- 費用はトータルコストで考えることが重要。糸リフトの繰り返しとフェイスリフトの一度の施術では、長期的に見て逆転するケースもある。
- 術者の経験・技術が結果に大きく影響するため、専門医資格や実績の確認を怠らないこと。
- 糸リフト単体のみならず、他の施術との組み合わせによるコンビネーション治療も選択肢として検討する価値がある。
Closing Note
私がカウンセリングで最も大切にしていることは、患者様が「正しい期待値」を持って施術に臨んでいただくことです。糸リフトもフェイスリフトも、適切に選択・施術されれば、人生の質を高める有効な手段です。しかし、どちらも「魔法」ではなく、それぞれに得意なこと・苦手なことがあります。
「どちらを選ぶか」よりも大切なのは、「自分のたるみの状態・ライフスタイル・優先したいこと」を医師とともに丁寧に確認するプロセスです。情報を正しく持ったうえで、焦らず、納得して決断することが、後悔のない美容医療につながると信じています。何かご不明な点があれば、まずは専門医への相談から始めてみてください。
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